小さな劇場のロマンティックな緞帳から始まるので、まるでおとぎ話のような雰囲気。
ロマンティックでエレガントな様子もあるのに、登場人物はくせ者ぞろい。
詐欺や盗みを続ける人
親に認められない人
自分の才能を発揮できないと思っている人
芯のある人
愛している人に愛されない人
権力と地位があれば人の心も手に入ると思っている人
あまりフランス映画に詳しくないのだけれど、「ぐぬぬ、さすがフランス映画」と唸ってしまう。
単純明快ではなく、キャラは立っているのに事情や感情、情事が小さく大きく絡み合って複雑な人間模様が目の前に現れていく。
「なんでこんなに単純にずどーんと話が進まないんだ!」とちょっとずつ幸せでちょっとずつ不幸でもある登場人物たちに、苛立ちを覚えながらもリアリティを感じている。
だってそうでしょ。現実の私の前の生活や暮らしや人生だって、ちょっとロマンティックやエレガンスが足りないけれど、ちょっと幸せでちょっと不幸で。でも娯楽見つけて楽しみながら、稼いだり、妙なことにエネルギーを傾けたり、怒ったり泣いたりしながら生きている。
注目するところは劇中劇でもあり、抜け殻のようだったバチストが魂が宿るきっかけともなる、バチスト自身のパントマイム!
本当に言葉を発していないのか、と思うほど雄弁でユーモラスに溢れ、とてもピュアで悲しみとはげしさも表現するパントマイム!
指先まで神経をやり、道化師の姿なので滑稽な仕草もするが、美しい。
私は天井桟敷で劇を楽しむ人々、つまり裕福ではない人々が、逞しく楽しくそれぞれの人生を生き抜くのか。が描かれていると思った。
個人が「私は私である」と自己主張し、自分を通し、自分として生きていく。
そこに誇りがあり、自由もある、こともある。
物語を詳しく解説していけばキリがないし、それならこの作品を見るほうがいい。
最後がいろいろ曖昧な雰囲気で終わってしまうのだけれども、よくわからない力技のようなニセモノっぽいハッピーエンドより、よっぽどか現実的であり、またロマンティックな想像も残酷な運命も考えられる余白が残っている。
この作品はナチス・ドイツの占領下であるフランスでそっと撮影されていた。
作中の音楽の作曲家はユダヤ人であったり、パリが舞台なのに資材を運んで安全な場所でセットを組み、第一幕も第二幕も大勢の人々が登場する賑やかな大通りや感謝祭のシーンもある。
そんなことも頭の片隅に入れながら見るとまた、感慨深い。
この情報は「金曜レイトショー」の解説で知った。
見るときや見終わったあとの余韻に浸るとき、より深いところまで響いている感じがする。
ありがとうございます。
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