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カフェのふかふかのソファに座り、
いい香りの紅茶と綺麗なケーキをつつきながら
ノートブックを開いてあれこれ思い出して書きつけたり、
あそこで買った絵葉書をテーブルに並べ、どれを誰に送ろうかと友達の顔を思い浮かべたりするのが好き。
しかし、今回の東京旅行ではそんな時間は1回もなかった。
ひとりであちこち歩き回り、
素敵なノートブックをオーダーしたり、
東京タワーに上ったり、
東京駅をぶらぶらしたり、
シャンパンゴールドイルミネーションを見たり、
夜のブランドショップのウィンドウディスプレイを眺めたりするか、
とにかく人と会ってしゃべっていた。
ひとりで座ってなにかをするのは大体宿に戻ったときで、
その時にはもうくたびれていて、寝落ちせずにお風呂に入って翌日の準備をするのが精いっぱい。
「ああ、ひとりで座ってノートブックにとにかくあれこれ書きつけたい!」
という欲望が自分の底のほうにあったが、
目の前の珍しいもの、好奇心を刺激するもの、そして会う人々に夢中になっていた。
六本木ヒルズの52階でtamとランチをして別れた後、その時間はやってきた。
暑いくらい日当たりのいい窓辺のソファに座り、リュックを放り出して私は随分長い時間をそこで過ごした。
遠くにはその日の午前中に上った東京タワーが見え、その右手には川があり、海につながっていた。
「ああ、ひとりだ」
前日の出来事が私にとって大きなことだった。
憧れの人、会いたくて会いたくてたまらなかった人と会い、短い時間でも言葉を交わす。
魂の一部を持っていかれたようだし、またその人の欠片を持たされたようなこともあり、
興奮は冷めやらず、ちょっと思い出すだけでも感情が渦を巻いて溢れ、泣きそうになる。
ようやく、そんな自分にそっと寄り添い、溜息がつける時間がやってきたのだ。
私は温室のような場所に1時間以上いた。
思ったよりノートブックに文字は書けなかったけれど、一つの場所に留まって魂が追いつくのを待つような、半分眠っているような、そんな不思議な時間。
ヒルズに観光にきた人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、私のそばを通っていく。
家族連れ、友達、ひとり。
私は私。
私は薄い柔らかな膜の中にいて、それとは無関係のひとりの時間を過ごしていた。
一度、お兄さんが「写真を撮ってくれないか」とスマホを差し出してきた。
窓から見える東京タワーと自分とをカメラに収めたいようだった。
私は快諾して、お兄さんのリクエストに応えた。
しかし、逆光なのでうまくいかず、二人で立ち位置を変えたり、フラッシュをたいたりしてみた。
お兄さんは横長での撮影をご所望だったが、何度かトライして、うまく撮れる場所を見つけ横長で撮ったあと、
「もう1枚、縦で撮ってもいいですか?」
と聞いてみた。
お兄さんは嬉しそうに「いいんですか?」と聞いてきた。
絶対、横より縦長のほうがカッコよく写るもん!
息を止めて撮影ボタンを押し、お兄さんにスマホを渡す。
お兄さんは「こっちのほうがいいですね!」とお礼を言って私から離れ、東京タワーをしばらく見て、その場から去った。
話しかけたら、そこでおしゃべりが楽しかったかもしれないが、
私はまたうつらうつらひとりの時間への沈んでいった。
気が済むまでひとりでいて、外を見ると日が随分傾いていた。
東京は広島より緯度や経度が違うせいか、日が傾くのが早いような気がした。
私はようやくノートブックをリュックにしまい、立ち上がった。
ファラオとの対面は、いろいろタイミングが合わなかったので止めることにして地上に下りた。
あんなに暑いくらいだった52階から1階に出ると、冷たい風が吹いていて、私は地に足がついたことを実感した。
そして、鉄のママンと六本木ヒルズを見上げ、次の場所へと歩いていった。
地上52階でひとりをむさぼっていた
|2017/10/01カフェのふかふかのソファに座り、
いい香りの紅茶と綺麗なケーキをつつきながら
ノートブックを開いてあれこれ思い出して書きつけたり、
あそこで買った絵葉書をテーブルに並べ、どれを誰に送ろうかと友達の顔を思い浮かべたりするのが好き。
しかし、今回の東京旅行ではそんな時間は1回もなかった。
ひとりであちこち歩き回り、
素敵なノートブックをオーダーしたり、
東京タワーに上ったり、
東京駅をぶらぶらしたり、
シャンパンゴールドイルミネーションを見たり、
夜のブランドショップのウィンドウディスプレイを眺めたりするか、
とにかく人と会ってしゃべっていた。
ひとりで座ってなにかをするのは大体宿に戻ったときで、
その時にはもうくたびれていて、寝落ちせずにお風呂に入って翌日の準備をするのが精いっぱい。
「ああ、ひとりで座ってノートブックにとにかくあれこれ書きつけたい!」
という欲望が自分の底のほうにあったが、
目の前の珍しいもの、好奇心を刺激するもの、そして会う人々に夢中になっていた。
六本木ヒルズの52階でtamとランチをして別れた後、その時間はやってきた。
暑いくらい日当たりのいい窓辺のソファに座り、リュックを放り出して私は随分長い時間をそこで過ごした。
遠くにはその日の午前中に上った東京タワーが見え、その右手には川があり、海につながっていた。
「ああ、ひとりだ」
前日の出来事が私にとって大きなことだった。
憧れの人、会いたくて会いたくてたまらなかった人と会い、短い時間でも言葉を交わす。
魂の一部を持っていかれたようだし、またその人の欠片を持たされたようなこともあり、
興奮は冷めやらず、ちょっと思い出すだけでも感情が渦を巻いて溢れ、泣きそうになる。
ようやく、そんな自分にそっと寄り添い、溜息がつける時間がやってきたのだ。
私は温室のような場所に1時間以上いた。
思ったよりノートブックに文字は書けなかったけれど、一つの場所に留まって魂が追いつくのを待つような、半分眠っているような、そんな不思議な時間。
ヒルズに観光にきた人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、私のそばを通っていく。
家族連れ、友達、ひとり。
私は私。
私は薄い柔らかな膜の中にいて、それとは無関係のひとりの時間を過ごしていた。
一度、お兄さんが「写真を撮ってくれないか」とスマホを差し出してきた。
窓から見える東京タワーと自分とをカメラに収めたいようだった。
私は快諾して、お兄さんのリクエストに応えた。
しかし、逆光なのでうまくいかず、二人で立ち位置を変えたり、フラッシュをたいたりしてみた。
お兄さんは横長での撮影をご所望だったが、何度かトライして、うまく撮れる場所を見つけ横長で撮ったあと、
「もう1枚、縦で撮ってもいいですか?」
と聞いてみた。
お兄さんは嬉しそうに「いいんですか?」と聞いてきた。
絶対、横より縦長のほうがカッコよく写るもん!
息を止めて撮影ボタンを押し、お兄さんにスマホを渡す。
お兄さんは「こっちのほうがいいですね!」とお礼を言って私から離れ、東京タワーをしばらく見て、その場から去った。
話しかけたら、そこでおしゃべりが楽しかったかもしれないが、
私はまたうつらうつらひとりの時間への沈んでいった。
気が済むまでひとりでいて、外を見ると日が随分傾いていた。
東京は広島より緯度や経度が違うせいか、日が傾くのが早いような気がした。
私はようやくノートブックをリュックにしまい、立ち上がった。
ファラオとの対面は、いろいろタイミングが合わなかったので止めることにして地上に下りた。
あんなに暑いくらいだった52階から1階に出ると、冷たい風が吹いていて、私は地に足がついたことを実感した。
そして、鉄のママンと六本木ヒルズを見上げ、次の場所へと歩いていった。
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