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読者カードを眺めて思う

 



文芸雑誌「代わりに読む人 0 創刊準備号」を本屋さんで買ったら、本の間に「読者カード」が挟まっていた。

通常、私はそれを本とカーバーの間に挟んだり、あるいは資源ごみにしたりするのだが、今回はなにか違った。

「ふぅん、切手を貼って出せるんだ」

とじろりと眺めてしまった。

しかし、はがきはそのまま、ごろごろと私の部屋のあっちの荷物の山、こっちの荷物の山、と移動していった。

ちょうど年度末で、異動と担当替えが決まり、自分に余裕がない頃だった。

ちなみに今でも余裕がない。まだ新しい職場に行き始めてこれを書いている時点では約1週間が経とうか、というところ。

ただ、このはがきはひきだしの奥にしまわれることも、資源ごみに分類されることなく、今も私のそばにいる。

そして「ふぅん。切手貼って投函できるんだ」という気持ちで眺めている。



おそらく、出したいのだろう。

なにか書いて。

「よくわからないけど、すんごくすんごくなにかが揺さぶられたんだ!」ということを作った人たちに伝えたいのだろう。

でも、このまとまらない、ぐるぐる渦巻くなにかを、この小さなはがきに書いて出せるとお思いかい?

すでにこのブログ記事だって、140字はとっくに越えているんだ。


あとさぁ。

はじゅかしいじゃ~ん?

なにか熱いものがあるのに「すっごいすっごすっごい!やっばいやっばいやっばい!」しか言えないあたいをごらんに入れるというのかい?

言葉にできないんだもの。


この相反する、面倒だけど本人は真面目に「困っちゃったなぁ。どうしよう」という思いにどう対処したらいいのか。

そこで考えたのですよ。

自分のブログ!

ここなら、いくら長くてもいいじゃん!

ぐるぐるして、正しい日本語じゃなくても多少は目をつぶってもらえそうじゃん!


ただひとつ、問題があるとすれば出版社の読者係さんに届かない、ってことなんですよ。

SNSに感想を書くときには推奨ハッシュタグをつけてくださいね!という注意書きがあるので、それをつけてツイートすればいいことなんです、多分。いや、絶対。

でもねぇ。はじゅかしいじゃん。

編集部と著者で読みます、みたいなメッセージも書いてあるんだよ。はじゅかしいじゃん。

自意識過剰なのは知っている!


そこで、わたくしキリエが取る方法は、ひとつ。

ボトルレター作戦!


ご存じですか、ボトルレター。

ネットもなにもない頃、びんに手紙を入れて海に流し、運良く誰かが拾ってお返事が来たらとってもラッキー!!!という、ロマンティックなことをしていたのです。私はやったことないけど。

今は環境問題のことがあるので、オススメしないけどね。


ネットの海にそっと感想文ともなんとも言えないけど「すごかったんじゃけぇぇぇぇ!いやもう、すごいんじゃけぇぇぇぇ。読んでぇぇぇぇぇぇ」ということだけしか書いていないブログ記事を流す。

もちろんSNSには投稿しませんよ。SNSに投稿したほうが検索にひっかかりやすいですからね。

ハッシュタグもつけようがありません。

そしてこのブログはとっても無名です。

ブログ名を検索したらヒットするけど、書いている内容についてはそうそうネット検索の上位になんて出やしません。


でも万が一、関係者さんに届くかもしれないじゃん?なにかの拍子に、とか、「旦那、こんなのがありましたぜ」と関係者さんに誰かがお知らせするとか。

そうなったらなったで、「はじゅかしいはじゅかしい」とどったんばったんしている私ごと読んでいただきましょうか。






そこまでしてどうして書くのか。

それはものを創っている人、ここではとても広い意味での創作活動をしている人、にとって「リアクション」というのはすっごくすっごくパワーになるからです。

それはにこちゃんマークの「とてもいい」「いい」「ふつう」のリアクションボタンでもいいのですが、それよりももっとテンションが上がるのが、自分の作品を前にした人たちの言葉。

これは、もうねぇ。

たまらんのですよ。



「付箋感想文」というのがあってさぁ。

おそらく同人誌界でのことだと思うのですが、好きな1冊の、その該当場所に「このっ!この表現がぐっときてたまらん!!!」とか「ここの指の感じがもう!」とかそういった読者の感想のエネルギーを詰め込んだ付箋を貼りまくって、作者さんにお渡しする。というものです。

たとえば。青い帽子と赤い帽子で有名な2匹のねずみさんが大きな卵を森で拾う絵本があるのですが。

「このカステラ!絶対いい匂いがする!してる!私にはわかる!!ホットケーキじゃなくてカステラ、というのもポイント高いよね!卵たっぷりで牛乳ほしくなる、なにもかけなくてもいい甘さ!いや、私も森のお友達と一緒にカステラ食べたい!いや、食べる!!!」などと付箋に書いて、該当のページのぺとっと貼るわけです。

SNSで何度かお見かけしたことがありますが、作者さんはめっちゃテンション上がっていたし、書いた読者さんも「お伝えできた~!!!」と達成感すごかった。

リアクションがあるとね、「よし、次も書こう!創ろう!」と思えるのです。


推しは推せるうちに推せ!っていうじゃん?

あれ、ほんとだから。

いろんな理由で創作活動を止めてしまう人もいるからさ。

やめるとわかって。あるいはやめてしまったことを後で知って。リアクションしても遅いんだよぅ。

届かないじゃん。届けようがないじゃん。



そんなぐるぐるしたまんまで、おしまい。

そっと流しましょうね、ネットの海に。





追伸

購入した書店 丸善広島店



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