編集

レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展 ~日本初公開「タヴォラ・ドーリア」の謎~ / 広島県立美術館

2021/06/052


私はてっきり、「レオナルド・ダ・ヴィンチのなにかがたっぷり見られる」と思っていました。
あれだけの手稿を残し、絵画、発明、多くの謎、ドキドキが止まりません。





シニョリーア宮殿(現ヴェッキオ宮殿)の大会議室「500人の大広間」に巨大な壁画を描くよう、フィレンツェ共和国はレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロに依頼。

しかし、レオナルドは絵の具の調子が悪く失敗したとして制作を放棄。
ミケランジェロもローマから呼ばれ中断。
二人の巨大壁画は未完のままで、のちにその絵の上から別の絵をかけられている、と言われている。

ということも知らずに、見に行きました。


メインはレオナルドの壁画の中心部分「軍旗争奪」をと言われる作者不明の「アンギアーリの戦い」でした。
副題の「タヴォラ・ドーリア」とは「ドーリア家の板絵」という意味です。

レオナルドが描いたものなのか、他の人が描いた模写なのか、まだわかっていません。

しかし、その迫力はすごいものです。
狂気に満ちているような「戦いとはこういうものだ」というのを見せつけられたような感じがしました。
騎乗の人たちの形相もそうですが、目をむいた馬、その馬の足元で自分を守ろうと盾の影に身を隠す男、あるいはとどめを刺そうとする男と刺されそうな男。
綺麗事もなにもない、こちらに突き刺さる作品でした。

また、レオナルドがこの壁画の構想のために残したスケッチや壁画制作を止めたことなどが書かれた文書も展示されています。


この作品はのちのヨーロッパの絵画に大きく影響を残し、模写され、あるいは画家の作品の中のモチーフとして後々まで取り入れられていました。
その流れを追う特別展でした。




もう一方の壁画の原寸大下絵を模写した「カッシナの戦い」も公開されています。
ミケランジェロは自分のことを「彫刻家」であると言っていたので、その肉体の表現は素晴らしいものでした。

もしこの二つが完成した巨大壁画として飾られた大広間はどうだったのでしょう?
想像もできません。





ただ、冒頭でも書いたように私はレオナルドの作品がたっぷり見られると思っていたので、そういう意味ではちょっぴりがっかりでした。


しかし、最後に小学生でも理解しやすいような、「レオナルド・ダ・ヴィンチのひみつ」のような展示があり、これは大変興味を引きました。

彼の膨大な手稿のファクシミリ版(忠実に再現されたもの。通常使うFAXとは異なる)がふんだんに使われ、発明したものの模型や絵を描くために人体解剖をしたときのスケッチ、鏡文字のノートなどを展示しながら、レオナルドのことを理解するものでした。

「天才ってこういうものなんだ」としか言えませんでした。


そして、ノートブックが好きな私はレオナルドの手稿はとても面白いものでした。
残されているものも膨大ですが、これでも半分も残っていないらしいので、どれくらい書くのが好きだったのかしら、と思いを馳せます。
貴重な紙、インク、ペンをふんだんに使える環境。
細かな文字でびっしりと埋め尽くされた紙面。
なんの戸惑いもなく書かれた鏡文字。
突然の数式。
設計図、スケッチ。

「こんなノートが書けたらいいなぁ」と憧れます。




東京では、レオナルドとミケランジェロの作品がたっぷりと見られる展覧会が開催されているようで、それも見たかったなぁ、と思いました。




■参考

レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展 特設サイト