私が福島にいたとき、
桃のジェラートを食べ、
桃のヨーグルトソースを食べた。
うきうきしている私を見て、コォが言った。
「桃、送ろうか?
福島はフルーツ王国なんだ」
その時に「うん」と答えたけど、
桃=高級品
という頭があって、ちょっと消極的だった。
桃の季節が近づき、
コォからメールが来た。
「桃、送ろうか?
今年はちょっと味が落ちるらしいけど。
家の人は福島の桃を気にしない?
ちゃんと検査してるし、
自分も食べてるけど」
と言った内容だった。
私はいくつかのことを思い出し、
そしてなんだか悔しく思った。
一つは、去年の桃の時期。
Twitterで、確か糸井重里さんがリツイートしていたブログのお話。
そのブログを書いた人は女性で、
毎年、時期になると桃を福島から送ってもらっていた。
原発事故から1年もたたず、
桃も敬遠される農作物のひとつとなり、
彼女の知り合いの桃農家の人は
泣く泣く処分をしていて、
彼女も複雑な思いをする。
そして、彼女はいつものように桃を受け取り、
出来が最高という桃を食べて、
おいしくておいしくてなんだか泣きそうになった。
人にも差し上げたけれど、
やっぱり、小さなお子さんを持つ人にはどうしてもあげられず、
自分の中にあるなにかを感じながら、
どうしようもない気持ちの様子を素直に書いたブログだった。
そして、私が見たお土産屋さんでの手書き看板。
それは干ししいたけで、
段ボールにマジックで黒々と、
「放射線検査済。
おいしい干ししいたけを安心してお召し上がりください」
という内容が書かれていた。
何を食べるか。
それは人の自由、と言えばそうなんだけれど、
「絶対に福島の農作物は食べない」
と断言する人もいるのは知っていて、
私はそれを聞くたびに悲しくなる。
でも強要はできない。
実は、職場には福島のお土産と共に東京のお土産も用意した。
「食べたくない。
でも、ここでいやと言えない」
という状況を作りたくなかったからだ。
一方で、こんなことをしている自分にも、自信がなくてコォには言ってない。
なんだか、言えなかった。
桃が到着して、すぐに箱を開けた。
産毛がまだつんつんしていて、痛いくらい、
そぉっと大事に大事に送られてきた桃は、
うっとりするほど甘く、
やさしく、
そしてちょっぴり官能的に香っていた。
何度も箱に頭を突っ込んで深呼吸をした。
本当にいい匂い。
写真を撮って、
仏壇にお供えして、
早速冷蔵庫に入れ、
夕食後に食べた。
「皮と実の間が一番おいしいから、
皮ごと食べるんだよ」
とコォに教えてもらったので、
かたい桃をカリッと食べた。
ヨーロッパでは桃の皮は全部つけたまま食べたなぁ、と思い出した。
コォが心配していた味は文句なく甘く、
飲みこむごとに鼻孔からも桃の香りが抜け、
ジューシーでぽたりぽたりと果汁をたらしながら
とにかく夢中になって食べた。
説明書によると、
かたい桃が好みなら、すぐに冷蔵庫へ。
ふつうなら、1日常温後、冷蔵庫へ。
やわらかいのが好みなら、2~3日、常温で追熟させてから冷蔵庫へ。
ああ、違う食感の桃が食べられるんだわぁ。
うっとりしちゃう。
うっとりしちゃって、
悲しい気持ちは少し横に置いてみた。
忘れたり、
考えないようにしたりはしたくない。
でも、そこだけを見ていたくもない。
コォも言っていたでしょう?
「元気な福島を見てほしい」って。
だから、私は桃を堪能する。
桃にはもうひとつ秘密がある。
いつかコォに話せたらいいな。
コメントを投稿
別ページに移動します11 件のコメント (新着順)
SECRET: 0
PASS:
みーこさん
去年は、
震災や原発のことに対して、
私もどう動いていいのかわからなくて迷っているうちに、
動けなくなってしまいました。
今も自分の動きをどうするか決めきれずに止まることもありますが、
少しは動けるようになったと思います。
桃、大好きな果物のひとつで、今年は堪能させてもらっています。
うーん、幸せ♪
SECRET: 0
PASS:
ゴエさん
放射線のことは深刻です。
農産物や畜産、漁業・・
声高になにか言えないけれど(言うつもりもなくて)
自分がどう感じたかを大事にしたいと思います。
桃はそのまま食べるのが一番好き。
でも傷みやすいので、「どうやっても生で食べきれない!」というときに、
桃のスウィーツが食べたいな。
SECRET: 0
PASS:
私は実家が福島で、毎年お盆に帰ると、甘くておいしい桃をたくさん食べます♪
ちょうど旬ですもんね(*^_^*)
今年は、福島の桃、TOKIOがCMやってたり店頭にも出てたりしてるけど、去年は風評で、心が痛かったですね…
おいしい桃なので、ご近所におすそ分けしようとした時も、やっぱり嫌な人はいるかな…とか悩みました(>_<)
私は生まれ育った福島が大好きなので、去年はホントに心が痛むことがいっぱいでした…
でも今年は、去年より元気が出ていたので安心しました(=゜ω゜)ノ
桃の香り、ホントにいい香りですよね♪
いっぱい癒されてきました☆
SECRET: 0
PASS:
読んで放射能ってのがあったんだなー
って過去のことみたいに思ってたんだけど
今現在も続いてることなんだよね。
ちょっと他人事過ぎてると反省。。。
茨城とかの野菜も一時期言われてたけど
自分はあんま気にしないでスーパーで買ってたりしてたからなw
今年は桃を食べてなくて羨ましい。
桃のフルーツタルト。シャーベット。コンポート。
とか美味しいものが頭に浮かんだw
まあ、一番は生で冷たくしたのを食べるのが一番すきだけどw
SECRET: 0
PASS:
おにぎりさん
トマトの皮と同じで、
口の中に残って口ざわりがよくない、と思われるなら、むくのがいいと思います。
むいているうちに果汁がこぼれることもあって、私は丸かじりです。
SECRET: 0
PASS:
ふぅさん
これまでは「ふくしま」と聞くと、きっと美しい磐梯山と猪苗代湖と果物がおいしくてハワイアンセンターがあって、起き上がり小法師と赤ベコがいて・・(会津よりなのは、私がそこを中心に回ったからです・・)と想像されていたのに、
多分、今は「ああ、原発のフクシマね」と思われてしまうことが多いのだと思います。
カタカナで、そう言われると訳もなく悲しくなったり、怒りがこみ上げてきたりします。
考えすぎ?
いやいや、そうじゃないと思います。
私はヒロシマのことに関してはそうです。
桃は大切に食べています。
どの桃を食べてもおいしくて、うっとり。
毎朝、箱に顔をつっこんで大きく息を吸って香りを楽しんでいます。
コォは私に福島のものを買ったり食べたりすることで協力をしてほしい、とはちっとも思っていないと思います。
そして、私も同じです。
私が桃が好きなので、喜ばすためです。
私は声高らかに「安全だ!」「おいしい」と叫ぶのではなく、
冷やした桃の果肉と果汁が熱くなっている身体に入り、染み込んでいき
しみじみと
「おいしい・・」
という感覚を大事にしていきたいです。
本当に、桃ちゃん、おいしい・・
コォにもお礼をもう一度言わなくちゃ!
ふぅさんもたくさんコメントをありがとう。
Rylixさんもありがとう。
SECRET: 0
PASS:
はじめまして こんにちは
今年、福島の桃を注文しました。
とっても安くて、申し訳ないほどでした。
でも、買うことによって少しは力になれるかなと思います。
皮ごと食べると美味しいんですね、今度試してみます。
次は去年美味しかった、梨を買ってみたいです。
SECRET: 0
PASS:
原発事故よりもずっと前に福島を離れていて、
今は住んでいない私がこんなことを言うのも・・・と思うのですが
私は福島が大好きで、ここに生まれて良かったし、家族は福島に住んでいます。
この先もずっととても大切な場所であることに変わりはありません。
だからこそ、悔しいし悲しい。
福島の人はわかっています。
拒否したり嫌がったりする人もいるし、どうしたって気を遣わざるを得ない。
でも、KyrieさんやRylixさんのように受け入れてくれる人の存在に、どれだけ救われていることか。
Rylixさんのコメント読ませていただきました。
もし私が友人に「オメーはバカか?」なんて言われたら、
こらえきれなくて号泣です。
あったかいなあ、って。
福島と広島は違う、と言われるかもしれませんが、
福島もずっと「フクシマ」と言われてしまうんですね。
広島には2度ほど行ったことがあります。
とってもきれいな街でした。
広島は、希望の光です。
SECRET: 0
PASS:
Rylixさん
私もコォから確認されたとき、よくわからないけどショックでした。
でも理由がわからなくて。
だけど、ショックを受けてもいいところだったんだ。
このことやお土産のことを書こうかどうしようか躊躇しました。
いろいろ迷いながら書きました。
「書いていいんだ!」と断言できるほどの自信がありません。
私ができることはただ一つ。
桃を楽しむこと。
産地にこだわりなく、「おいしいがおいしくないか」をはっきり言ったり、
素直に甘い香りに酔って食べつくすのみ。
そう思いました。
SECRET: 0
PASS:
コメントしようと思って、もう10分以上PCの前に座ってるんだけど、言葉に出来ないな。
"家の人は気にしない?"
この言葉を読んだ時、涙が零れた。
俺の友達がそんな気遣いしたら、俺、泣きながら怒っちゃうだろうな。
「オメーはバカか?」
そんな言葉しか言えないだろうな。
俺のボキャブラリ低すぎて、こんな言葉でしかコメント出来ない。
SECRET: 0
PASS:
先々週福島に行ってきました。
桃も食べました♪
震災前は、桃を職場の人やご近所さんにもおすそわけしていたけど・・・
今は、できません。
お土産も福島のものは控えていました。
私の母が送ってくれた桃を、福島出身ではない夫が
「美味しい!!」と喜んで食べてくれるので、救われています。
コォさんが「家の人は気にしない?」と聞いたように
福島の人がこんなふうに気を遣わなくてはならないこと、かなしいきもちになります。
でもKyrieさんが福島に心を寄せてくださること、
そして桃を味わって食べてくださったことがとても嬉しいです。
ありがとうございます。