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私を手放しなさい

2021/08/242










ヴォノにこう言ったとき、
私は平気でもなかったし、
ヴォノのことを嫌いになったわけでもなかった。




二人の間に距離ができてからというもの、
余裕がないなぁ、
とヴォノに対して思っていた。



ハードでタイトな仕事を要求されたり、
時には理不尽だったり。

うまくいっていたことが
急に崩されたり・・。



そして、幾つかの理由で私との間に「距離」があり。

私に具体的に「いつから一緒にいよう」と言えない状況があり。





あれやこれやで、余裕がない日々が続いているようだった。





追い詰められた彼はとてもしんどそうだったので、
少し聞いてみた。




彼が「しんどい」と感じる理由の中に私のことが入っていた。




その頃、何回か言われたことは、

「もし、明日にでも『結婚しよう』という男性が現れたらどうする?」

「あなたの幸せを阻んでいるような気がする」





ああ、この人は、
「キリエを幸せにできない」
「キリエが結婚をして家族を持つことを邪魔している」
と感じているんだなぁ、と思った。



「しんどい。
もうやめたい」

彼がぼそりとメールの返信で言ってきた。




そして、私は意を決して言った。



「私を手放しなさい。

解放されなさい。

そうしたら自由になれる。

今すぐさよならを言いなさい」








そんなに相手に負担になっているのなら、
私は彼と一緒にいたい、と切望はしない。









ヴォノと離れて、
一時期、私は彼を感じられなくなったときがあった。

彼がいくらメールしても、
Skypeで話しても、
心はときめかず、
凍ったようだった。

それに対して、ヴォノはショックだったようで、
私たちの間にはそれでトラブルが起こった。



私がどうして彼のことを感じられなくなったのかわからないが、
なにかのきっかけで、私の心にはまた血が通うようになり、
どきどきするようになった。







調子が悪いときはある。

それが一過性のものなのか、
それともどうにもならない不協和音なのか、
冷静に判断するのはとても難しい。

でも、ずるずると関係をひきずってしまうより、
きっぱりと関係を断ってしまったほうが、
楽になることは多い。







私を手放すように言うと、
ヴォノはさよならを言ってきた。





私はただ呆然とするだけだったが、
私の発言は「これでいいんだ」とひどく自信があった。










私はおたがいに
「さよならをする」カードを持っておいたほうがいい、と思う。

だからこそ、自由で、
だからこそ、自分でこの人を選んでいる、と思える。





だから、私はいつでも彼のことを手放すことができ、
彼も私を手放すことができる。











後日。

意を決して言ったのだけれど、
やはり大きく傷ついていて、
私はしばらく元気をなくしてしまう。


そして、強く思った。

「この関係もいつ終わるかわからないのだ」




だから、「今」を精一杯楽しもう、と思った。




いつ、彼との別れがやってくるかわからない。

だから、今、「大好き」ときちんと伝えよう。










そして、もうひとつ。

いくら追い詰められていたとはいえ、
次に「さよなら」を彼が告げたら、
私は振り向かず、私の道をひとりで歩き始めるつもり。


それくらい真剣だったんだからっ!!!