船のストーリーを読んだせいか、いろいろ思い出すことがあった。
私の祖父母は、私が小さい頃ほぼ無人島に住んでいた。
学校の長期休業にはそこに預けられることが多く、そのときの体験が今もほんのりと私の中に残っている。
さて、ほぼ無人島なので交通手段は祖父の船だ。
小さないけすもあったので、漁船という種類のなるのだろうか。
最寄りの港まで祖父が迎えに来てくれて、そこから島まで20分くらいだった。
思い出したのはその船のことだ。
沖を大きな船、フェリーや貨物船、といってもタンカーみたいなものじゃないけど、そんな船が通ると祖父の声が飛ぶ。
「船のへりにつかまれ!」
このときばかりは温厚な祖母も鋭い声で「落ちるなよ!」と叫ぶ。
そして祖父は船のエンジンを切り、櫓で船を操る。
櫓(ろ)、というのは、いわばボートのオールのような機能を持つものだ。
私が知る限り、船の後ろについている木製もので、それで船を操る。
なぜこんなことをするかというと、大きな波が来るからだ。
遠くても波はやってくる。
小さな船が小さなエンジンで波に逆らえば転覆する。
ときには布のようなものを頭からかぶる。波しぶきで濡れるからだ。
エンジンを切った船に大きな波がぶつかると船は大きく揺れる。
おそらく波に対して船を立てるように祖父は櫓を漕いでいたんだと思うけど、私も船に詳しくないし記憶も曖昧なので、いつかそういうことに詳しい人に会ったら聞いてみよう。
船の揺れは横揺れというよりは上下にもふわりふわりと揺れる。
それがちょっとした遊園地のアトラクションのようで子どもの私はわくわくしていたが、みんなの安全を守る祖父はぴりぴりしていた。
弟と一緒に「来るぞ!」と叫び、揺れると歓声を上げていたけど。ごめんね、じいちゃん。
もしここで立ち上がったら船から落ちちゃうなぁ、と今なら容易に理解できる。ごめんね、じいちゃん。
こうやって身を低くし、船のへりを持ち、大きな波がおさまるまでやり過ごす。
妙にオトナになった私は「これって人生のなんちゃらかんちゃらにも役に立つのでは?」と啓発本みたいなことを考えちゃった。
まぁ、抗うだけではなく竹のようにしなやかに、柳のように風に揺れ、世間の荒波や強風を越えていく方法もあるとは思うけどね。
と、こんなことを思い出した。
だからどうというわけではなく、そうだったのさ。
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