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カメラと。恋愛と。

2021/09/084




ブログを見ていて、
写真が決定的に違うのはなぜだろう、と感じていて、
その原因がカメラによるものだとようやく気がついた。

その頃、私はポッケに入るくらいのコンデジを持っていて、
カメラとは「いつでもいっしょ。どこでもいっしょ」の蜜月を過ごしていた。



コンデジより性能がいいのは「一眼レフ」しかない。
とずっと思っていたが、
手帳特集が読みたくて買った雑誌に
コンデジと一眼レフの中間どころの「ミラーレスカメラ」というものが出てきたのを知った。

気づけば「カメラ女子」ということばがあちらこちらで聞かれるようになり、
白くてかわいいカメラを持った宮崎あおいのCMをテレビで見るようになった。

私も憧れて、ネットで調べたり、本を読んだりし、
もちろん家電量販店に行って実物を見ることもした。


2台ほどNikonのコンデジを使っていて、
Nikonが初のミラーレス機を出す、という時期だったので、
私はわりとすんなりとNikon1 J1の白いカメラがいいな、と決めた。

しかし標準と望遠レンズがセットになったものは8万円台だった。

当時、私は遠距離恋愛をしていた。

8万円と言えば、彼に会いにいく旅費の2往復分だった。


最初はカメラと彼に会いにいくことを天秤にかけ、彼を選んだ。




しかし、彼は休日がほとんどなく、
仕事も真夜中を越えることが連日で、
二人の間のコミュニケーションはどんどんなくなっていった。

出会ってから3カ月もしない時期に遠距離恋愛になったものなので、
私はいつも寂しいという気持ちをかかえ、
一緒にいる、ということに飢えていた。


彼に会いにいく旅費を溜めていても、
なかなかお互いの都合が合わず、
会えないことが続いていた。



「旅費があっても会えないのなら、私の人生が充実するほうを選ぼう」

数カ月悩んだ末、私はこう考え、Nikon1 J1の白を手にした。




こんな調子だったので、
聞こえていないふりをしていたのに、
二人の間に響く不協和音は日に日に大きくなってきた。


それから数カ月後、私はその時がやってきたのを知り、
そして彼が私会いにきたときにお互いソロとなって進むことはどうか、と尋ねた。

彼も不協和音には気づいており、私に同意した。


お互いに嫌いになったわけではなかった。

ただ、コミュニケーションがなくなって、つながりがどんどん薄まり、
相手への思いやりの気持ちが持ちにくくなっていた。

なにが悪いか、と言えば、
ブラック企業のような彼の会社とか、
東日本大震災とか、
まとまった休みが取りにくい私の仕事とか、
お互いが言いたいことを言わずに溜めこんでしまわなければならないような関係とか、
いろいろ。

不満が溜まり、
相手が自分のことを理解してくれないことに腹を立てた。


好きなのに、それがうまく伝わらなかった。




私たちは大阪で関西の友達と会うことになっていた。

2人で新幹線で大阪に行った。

以前、転勤で関西にいたことのある彼は、
おいしいお店を何軒も知っており、
ずっと私に食べさせたい、と言っていたうどん屋に行った。

お昼時で、狭い店内のカウンター席が空いた。

私たちは並んで座った。


カウンターの中のお兄さんが、私の白いカメラに気がついた。

「お2人を撮りましょうか?」

私はそっと彼を見た。
彼がうなづいたので、素直にお兄さんにカメラを渡した。

 お兄さんは私たちの写真を撮り、カメラを私に戻しながら
「いい感じで撮れてますよ!」
と声をかけてくれた。


椅子が固定されていたので、
私たちはお互いに相手のほうに身体を寄せ、できる限りのスマイルをして見せていた。

本当にいい感じで撮れていた。



私たちは友達と会い、
それから新大阪の駅で東と西に別れることにした。

早朝の駅で、彼が私を見送ってくれることになった。

ホームで時間ぎりぎりまで、私たちは人目を気にせず抱き合っていた。


もうすぐ新幹線がやってくる、と放送がかかったとき、
彼は私にキスをして、
「やっぱりやり直す、ってできないかな?」
と聞いた。


私は、
「このままじゃ、また同じことをするだけだよ。
自分たちが変わって、
次に会った時、また好きになったらつき合うのがいいと思う」
と答えた。

彼は、
「そうだね」
と言い、私はやってきた新幹線に乗り込んだ。




帰宅してから写真を見たら、
うどん屋で撮ってもらった私たちは、
本当にらぶらぶカップルに見える、いい写真だった。


写真ってよくて、
でも残酷なんだ。

と、ぼんやりと思った。







Nikon1 J1には英介と名づけて、
私は彼と沢山の場所へ行き、写真を撮った。

最近、物足りなくなって新しいカメラがほしくなってきた。

でも、英介が嫌いになったわけじゃない。

しかしどんなに言い訳をしても、私が「悪いオンナ」になった気分だ。



困ったなぁ。
と思いつつ、英介とのことを思い出していたら、
うどん屋で撮ったあの1枚のことも思い出した。



これもなにかの機会かな、と思い、書いてみることにした。