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夜のアンティーク時計店で、
香りが高くて喉の奥のほうでこっくりと甘いブラック・コーヒーをすすりながら、
素敵な靴を見ていた。
「試してみるだけでもいいので、楽しんでください」
と男主人は、私に一足のサンダルを薦めた。
普段、スニーカーとリュックでずんずん歩く私は、
ヒールのある華奢なサンダルを履きなれていない。
ヒールが7cmで、生まれたての子牛のようにぷるぷるしながら立っていた。
甲が薄く幅が広い、という足なので、
細くてしゅっとした靴が履けない私は、
ヒールのあるサンダルにはとても慎重になるのだが、
このサンダルは優しく足を包んでくれた。
でも慣れない感覚に、すぐに脱いでしまった。
しかし、どうにも気になって、
女主人に頼んでもう一度、サンダルを履かせてもらった。
鏡に映る私の足は、
スニーカーやビルケンシュトックの靴を履いたときのずんぐりむっくりな感じではなく、
しゅっとなって、ちょっぴりセクシーだった。
夏にこれを履いてみちゃう?
未だに「生まれたての子牛状態」なんだけど?
自分の中でいろいろなことが渦巻く。
他の靴も履いてみてはどうか、と促され、
私は茶色いマニッシュな雰囲気のレースアップの靴を履かせてもらった。
うん!
まさにいつもの私!
ちょっと小指が痛いけど、この靴ならすぐになじみそう!
リュックを背負ってずんずん歩けそうだ!
「主人は男目線で、あのサンダルをお薦めしたんだと思います。
私はこちらをお薦めしますね」
と女主人は言った。
背伸びした私。
いつもの私。
内側で火花が散って、渦巻きが激しくなった。
結局、両方選べずに、お店を後にした。
けれど、久々に味わった「自分が女性である」感覚は快感だった。
ハイヒールをはいた途端に大人の女の足になった
|2022/02/11夜のアンティーク時計店で、
香りが高くて喉の奥のほうでこっくりと甘いブラック・コーヒーをすすりながら、
素敵な靴を見ていた。
「試してみるだけでもいいので、楽しんでください」
と男主人は、私に一足のサンダルを薦めた。
普段、スニーカーとリュックでずんずん歩く私は、
ヒールのある華奢なサンダルを履きなれていない。
ヒールが7cmで、生まれたての子牛のようにぷるぷるしながら立っていた。
甲が薄く幅が広い、という足なので、
細くてしゅっとした靴が履けない私は、
ヒールのあるサンダルにはとても慎重になるのだが、
このサンダルは優しく足を包んでくれた。
でも慣れない感覚に、すぐに脱いでしまった。
しかし、どうにも気になって、
女主人に頼んでもう一度、サンダルを履かせてもらった。
鏡に映る私の足は、
スニーカーやビルケンシュトックの靴を履いたときのずんぐりむっくりな感じではなく、
しゅっとなって、ちょっぴりセクシーだった。
夏にこれを履いてみちゃう?
未だに「生まれたての子牛状態」なんだけど?
自分の中でいろいろなことが渦巻く。
他の靴も履いてみてはどうか、と促され、
私は茶色いマニッシュな雰囲気のレースアップの靴を履かせてもらった。
うん!
まさにいつもの私!
ちょっと小指が痛いけど、この靴ならすぐになじみそう!
リュックを背負ってずんずん歩けそうだ!
「主人は男目線で、あのサンダルをお薦めしたんだと思います。
私はこちらをお薦めしますね」
と女主人は言った。
背伸びした私。
いつもの私。
内側で火花が散って、渦巻きが激しくなった。
結局、両方選べずに、お店を後にした。
けれど、久々に味わった「自分が女性である」感覚は快感だった。
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